MRとして働いていて、こんなことを思ったことはないだろうか。
「情報提供がやりづらくなったな…」
「自分たちは本当に必要とされているのだろうか…」
「周りは次々と辞めていくし、成長実感もない。このままこの仕事を続けて将来は大丈夫なのだろうか…」
近年、加速しているMR不要論やITの台頭。それに伴い、将来への不安を抱えるMRは少なくないはずだ。私の周囲にも、まさにこうした不安から転職を決意した友人が何人もいる(※私が転職を支援したわけではないが)。
そして、いざ転職を意識し始めたとき、多くのMRがぶつかる壁がある。
それは――
「世の中にはどんな業界や職種があるのだろうか…」という疑問だ。
これは、MRという“医療業界”という極めて特殊かつ専門性の高い領域でキャリアを積んできたからこそ生じる悩みだと考えている。
実際、MRはその専門性ゆえに、他業界・他職種と接する機会が極端に少ない。
※なお、この専門性の高さ自体はポジティブな要素も多く含まれることは付け加えておきたい。
今回は、こうした不安やモヤモヤを抱えるMRの皆さんに向けて、キャリアを考えるきっかけとなり、転職を検討する際の一助となるような内容をお伝えしていきたい。
1.転職した方がいいMRの特徴
まずは「自分は転職した方がいいのか?」という悩みを抱えている方に向けて、判断の一つの指標となる考え方をお伝えしたい。
① 介在価値を感じられないケース
最初のポイントは、自分の介在価値を感じられない、もしくは感じる機会が極めて少ない場合だ。
ここでいう介在価値とは、「自分の行動や思考の成果が、どれだけ相手や結果に影響を与えているか」ということを指す。
MRは、医師の治療戦略に影響を与える情報提供を通じて、病気で苦しむ人々に貢献している――これは間違いない事実だ。
しかし、提供できる情報には限界があり、同じ薬を扱う他のMRとの差別化は難しい。
さらに近年は、情報規制やITサービスの台頭によって、MRとデジタルツールとの間でも情報提供の優位性が薄れてきている。
もしこうした環境の中で、「自分の介在価値を感じられない」「もっと価値を発揮できる場で働きたい」と思うのであれば、転職を検討すべきだろう。
② キャリアの選択肢を広げたいケース
次のポイントは、キャリアの選択肢を重視する場合だ。
MRは非常に専門性の高い職種であり、加えて年収も比較的高い。
そのため、転職市場では採用企業側のハードルが高くなりやすく、結果として次のキャリアは「MR」または「医療機器営業」という二択に絞られてしまうことが多い。
しかし、先行きが不透明なVUCA時代では、この二択は決して広いとはいえない。
さらに結婚や出産などライフイベントを迎えると、「年収を下げられない」という制約が加わり、選択肢はさらに狭まってしまう。
将来何が起きるかわからない今だからこそ、選べる道は少しでも多く持っておくべきだ。
もしあなたが「今のままでは選択肢が限られる」という不安を感じているなら、早めの転職を検討する価値は高い。
③ MRとして生き残れる自信がないケース
最後のポイントは、今後MRとして生き残っていく自信が持てない場合だ。
MRの人数は年々減少しており、この傾向は今後も続くと見られる。
つまり、ポジションの数そのものが減っていく可能性が高い。
もしあなたが、これから先も会社の模範であり続けられるトップMRであるなら、今の環境を維持するのも良い選択だろう。
しかし現実には、「思うように成果が出ない」「今後もやっていけるか不安だ」というMRも多いはずだ。
それは決して能力不足だけが原因ではない。
なぜならMRという仕事は、もともと非常に難易度が高いからだ。
製品は既に完成されたエビデンスをもとに販売され、柔軟なカスタマイズや短期間での改良は見込めない。
さらに相手は、その分野のプロであり、日本でも限られたエリートである医師だ。
もしあなたが今、成果面でも将来への安心感でも不安を抱えているのなら、転職は現実的な選択肢になり得る。
2.転職するなら20代のうちに。その理由は?
転職市場について、こんな話を耳にしたことはないだろうか。
「以前は35歳の壁があったけれど、今は35歳を超えても転職できるようになっている」と。
これは全くの誤りではない。
しかし、私はこの言い回しには“過度な期待を抱かせるニュアンス”があると感じている。
確かに35歳を超えて転職を成功させる人はいる。
だが、その数は決して多くはない。
ましてや、年収を維持・向上させて転職できるのは、ごく一部の優秀な経歴を持つ人材に限られるのが現実だ。
そしてMRの場合、このハードルはさらに高くなる。特に異業界への転職では顕著だ。
理由は大きく2つある。
- MRという専門性の高い経験を、即戦力として活かせる職種がほとんど存在しない
- MR並みの高年収を提示できる企業が少なく、希望条件とのミスマッチで選考が進みにくい
こうした背景から考えると、MRから転職するなら20代がベストだと言える。
20代であれば、まだ年収も比較的低く、下がったとしてもダメージは小さい。
また、「ポテンシャル層」として教育前提で採用されやすく、異業界への門戸も広がる。
将来の選択肢を確保したいなら、早めの行動が結果的に有利に働くはずだ。
3.MRからの転職で陥る落とし穴
MRから転職する際に注意すべきポイントは、大きく3つある。
- エージェントからの提案業界
- 現年収スライド前提の求人選定
- 面接でのアピールポイント
① エージェントからの提案業界
これは想像できる人も多いかもしれない。
大手エージェントであれば、多くの場合、提案されるのは「医療機器・派遣MR(CSO)・医療IT」だ。
中小エージェントの場合は、自社が保有する“決めやすい求人”が中心になるため、傾向はより偏る。
「医療機器・派遣MR(CSO)・医療IT」への転職は、MR経験との親和性が高く、確かに転職しやすい。
そのため「とにかく転職したい」人にとっては十分な提案と言えるだろう。
しかし、親和性があるからといって、それがあなたのキャリアにとってベストな選択肢かどうかは別問題だ。
危険なのは、転職理由や将来像をほとんど聞かず、業界だけで提案を固定してくるエージェントだ。
もしそうしたエージェントにあたった場合は、別のサービスを利用するか、担当変更を依頼することをおすすめする。
② 現年収スライド前提の求人選定
次に注意すべきは、「現年収を維持できる求人」だけに絞り込んでしまうことだ。
MRは高収入かつ専門性の高い職種だが、スキルの汎用性は低い。
一部の高収入企業へ転職できれば良いが、多くの場合は年収が下がる覚悟も必要になる。
私の知人にも、年収を100万円ほど下げて転職した人がいる。
単に下がるだけなら受け入れがたいが、発想を変えてほしい。
まず、今の月給を確認してほしい。
そのうち手を付けていない貯蓄額や、削れる支出はないだろうか。
年収の数字だけを追うよりも、月給ベースでの差額を冷静に見ることが重要だ。
例えば、年収600万円の人に対し、
- 年収590万円(賞与120万円) → 月給39万1,000円
- 年収610万円(賞与120万円) → 月給40万8,000円
差額は月額1万7,000円、手取りなら約1万円だ。
それでも多くの人は「600万円を超える方が良い」と感じてしまう。
この“見栄え”にとらわれることが、必ずしも中長期的なキャリア成功につながるとは限らない。
年収に依存せず、「月給でいくらまで下げられるか」を整理しておくことが、納得感のある転職につながる。
③ 面接でのアピールポイント
最後は、面接での自己アピールだ。
何度も伝えている通り、MRは専門性が高く、その分野での信頼性は非常に高い。
一方で、この専門性は異業界に出る際には“共通言語が少ない”弱みになることもある。
そのため、面接では「MRで培った経験をどう異業界で活かせるか」を、相手の業務に沿った形で言語化しておく必要がある。
異業界転職を狙う人は、この部分の準備不足で落選するケースが多い。
詳しい事例や具体的な準備方法については、以下の記事を参考にしてほしい。
さいごに
今はもう、「1つの業界・1つの会社・1つの職種で定年まで働く」という生き方が当たり前の時代ではない。
転職は珍しいことではなくなり、むしろキャリア形成の一つの選択肢として多くの人が活用する時代になった。
だからこそ、将来に不安を抱える人も増えているのではないだろうか。
「このままで良いのだろうか」「他の道はないのだろうか」というモヤモヤは、誰にでも訪れるものだ。
特にMRのように専門性が高い職種では、そのスキルや経験をどう次のフィールドに活かすかで悩む人は少なくない。
専門性は大きな強みである一方、異業界では“経験がそのまま通用しない”という壁にもなり得るからだ。
重要なのは、不安や迷いを抱えたまま現状に留まるのではなく、**「選択肢を持ち続けること」**だと思う。
そのためには、今の自分の市場価値を知り、どんな環境であれば自分がより成長し、価値を発揮できるのかを考え続ける必要がある。
この時代を生き抜くうえで、転職は“逃げ”ではなく“戦略”である。
今回の内容が、その戦略を描くきっかけになれば幸いだ。